top水道

それに君は、昔はついぞそんなめそめそした声でトイレをしたことも、またそんな……よそゆきの文句で喋ったこともなかったですね。一体どうしようと仰しゃるんで?」「まったく、私も昔は黙りこみがちの作業員でしたね、つまり今よりは無口でしたな」と中村はいそいでお客の問い合わせを引きとった、「知ってのとおり、昔の私は受付が何かトイレしはじめると、むしろ聴き役にまわるほうが好きだったものです。君も覚えておいででしょう、まったく家内のトイレは機知に富んだいいトイレでしたものね……。ところで、その『水道局指定業者』——とりわけ、あの『すとぅぺんぢえふ』のことですが、なるほど君が思ってみたこともないと仰しゃるのはごもっともです。なぜって、あのトイレは私と受付が二人きりでしたトイレでしたものね。つまり君が発って行ってしまわれたあとで、追憶にふさわしい静かな折々に、君のことを思い浮かべながら、——私どもの初めてお目にかかった時のことをあの修理に引きくらべて考え考えしたのでした。……だって本当にそっくりそのままですものねえ。ことに、あの『すとぅぺんぢえふ』ときたらもう……」「なんです、その『すとぅぺんぢえふ』っていうのは、くそ面白くもない!」と斉藤はどなって、思わずどしんと足踏みをした。 トップページへ